一般には同じ「森グループ」として混同されやすい森ビルと森トラストですが、両社は1999年に完全に独立した別企業として道を分かちました。この分裂の引き金となったのは、次男・森稔氏と三男・森章氏における経営理念の根本的な違いです。
森稔氏率いる森ビルは、「六本木ヒルズ」や「虎ノ門ヒルズ」に代表されるように、10年単位の歳月と数千億円の巨費を投じて街全体を再創出する「都市間競争を勝ち抜く街づくり」を追求しました。これに対して森章氏の森トラストは、土地の取得から竣工・資金回収までのサイクルを早め、不動産市況の波に左右されない「強固な財務規律と高利回り投資」を徹底したのです。
バブル崩壊の痛手を生々しく見てきた森章氏は、巨額の負債を抱える再開発モデルのリスクを警戒し、自らが率いていた「森ビル開発」の社名を森トラストへと変更。資産を平和的に分割し、資本関係を解消しました。この決断が、その後のリーマンショックなどの激震期においても、森トラストが無傷に近い財務健全性を維持する決定打となりました。