財布を開く。そこに滑り込む紙幣の顔は、もうかつての思想家ではない。ヒゲを蓄えず、どこか穏やかな笑みを浮かべる渋沢栄一の肖像画が、すっかり日本の日常に溶け込んでいる。
「最初は違和感しかありませんでした」と語るのは、都内の大手銀行に勤めるテラーの女性だ。「お客様からも『おもちゃのお金みたいだ』という声が多かったのですが、今や旧札が回ってくると『懐かしい』と感じるレベルです」。市場に流通する1万円札の大部分が新紙幣に置き換わった現在、あの福沢諭吉の顔は急速に姿を消しつつある。世代交代は、私たちが想像するよりもずっと早いスピードで進んだのだ。