SNSやQ&Aサイトを観察すると、「中3になって急に変な屋根付きの記号が出てきて数学を諦めた」「鮭の切り身ならタレが決め手だが、ルートは何が決め手なのかさっぱりわからない」といった生徒たちの悲痛な叫びが散見されます。なぜこれほど多くの人がルートの登場によって脱落してしまうのでしょうか。
認知心理学や数学教育学の研究によると、人間の脳は「具体的な数量」を想起できない抽象記号に対して強いストレスを感じる性質があります。小学校の算数では「みかんが3個」「水が2リットル」のように目に見える数量を扱ってきました。中学校で文字式「x」が登場した際も、箱の中に数字が入っているイメージで乗り切れた学習者が少なくありません。
ところがルートが登場した途端、その直感的理解が打ち砕かれます。「√2」はおよそ「1.41421356…」と果てしなく続く数字ですが、これを小数で書くことは不可能です。ルートを使う理由と背景はまさにここにあります。循環しない無限小数(無理数)を、寸分の狂いもなく紙の上に正確に書き留めるために、人類はこの記号という「箱」を発明しました。
教育現場の指導者たちは、「生徒がつまずく最大の原因は、ルートを『計算して小数を出すべき未完成の式』だと誤認している点にある」と口を揃えます。√2は、それ以上分解できない完成された1つの確定値です。アルファベットの「x」と同じように、ひとつの独立した数字のパッケージとして受け入れる意識の切り替えができるかどうかが、最初の分岐点となります。