ローズマリーは成木になると乾燥や貧栄養の土壌にも耐えうる強靭さを見せますが、発根前の挿し穂は極めて繊細です。「ただ枝を切って土に挿すだけ」で失敗してしまう背景には、見落とされがちな4つの明確な物理的・生物学的理由が存在します。
第1の要因は、「挿し穂にする枝の硬さ(成熟度)の選定ミス」です。樹木のように茶色く完全に固くなった「木質化部位」は細胞分裂の活性が低く、発根までに膨大な日数を要して途中で力尽きます。一方で、先端の柔らかすぎる新芽(黄緑色の極めて若い茎)は組織が軟弱で、水分蒸散に耐えられず萎れて腐敗しがちです。最も発根しやすいのは、先端から少し下にある「適度な弾力を残した緑〜黄褐色の半木質化部位」です。
第2の要因は、「用土の肥料分と雑菌による切り口の壊死」です。元肥入りの花壇用培養土や、古い植物を育てていた使い回しの土には、未発根の切り口を侵食する糸状菌(カビ)や細菌が多数存在します。また、肥料成分(チッソ・リン酸・カリ)が土壌に含まれていると、浸透圧の関係で切り穂から水分が奪われ、切り口が黒変して腐る原因となります。
第3の要因は、「蒸散量と吸水能力のアンバランス」です。根を持たない挿し穂は、茎の切り口からわずかな水分を吸い上げることしかできません。葉がたくさん残ったままの状態で直射日光や乾燥風にさらされると、葉の気孔から水分が蒸発するスピードに吸水が追いつかず、細胞が脱水症状を起こして枯死します。
第4の要因は、「過湿による酸欠と切り口の潰れ」です。発根には水分だけでなく、細胞呼吸に必要な「酸素」が不可欠です。水はけの悪い粘土質の土を使ったり、受け皿に水を溜めっぱなしにしたりすると、用土内が酸欠状態に陥り、発根組織が窒息してしまいます。また、切れ味の悪いハサミで茎を押し潰すように切断すると導管が破壊され、水分を吸い上げられなくなります。