日本人のソウルフードであるとんかつにおいて、部位選びは店主にとっても客にとっても最大のテーマだ。高温の油で揚げた際、ロースは外側の脂身が溶け出し、衣の中で肉汁と混ざり合うことで圧倒的なコクを生み出す。サクサクした衣の香ばしさと、溢れるラードの甘みの相乗効果こそがロースカツの醍醐味と言える。
一方、ヒレカツは脂肪分が少ないため、揚げ時間のコントロールが極めて繊細だ。肉の中心部に絶妙な余熱を通すことで、しっとりとした歯切れの良さと赤身本来の上品な旨味が引き立つ。あっさりとした後味を好む層や、年配のグルメファンから絶大な支持を集める理由がここにある。
さらに、近年人気を博している厚切り豚肉の焼肉においても選択のポイントは分かれる。強火で一気に表面を香ばしく焼き上げる焼肉では、ロースの脂が炭火に落ちて上がる煙が独特の燻煙香を肉に纏わせる。他方、ヒレの焼肉はサッと表面を炙り、岩塩やワサビ、レモンでシンプルに味わうのが通の食べ方だ。近年の外食産業では、こうした部位ごとの特性を最大限に引き出すカット法や焼き方の提案が過熱している。