外見上は同じ漢字を共有していながら、耳で聞くと一言も理解できない最大の理由は、両者が言語学的に全く異なる系統に属している点にあります。比較言語学の分類において、中国語は「シナ・チベット語族」に属する孤立語である一方、日本語は「日琉語族(日本語族)」に属する膠着(こうちゃく)語です。生物学に例えるならば、鳥類とコウモリのように「外見や飛ぶ機能は似ていても、骨格や発生系統は根本から別物」という関係性に近い構造を持っています。
歴史を遡ると、古代の日本列島には固有の文字体系が存在せず、大和言葉と呼ばれる音声言語のみが使われていました。4世紀から5世紀頃、大陸から漢字が伝来したことで、日本人はその文字体系を借用し、自らの言葉を表記する工夫を重ねました。その過程で漢字の音だけを借りた「万葉仮名」が生まれ、平安時代初期にはそれが崩れて平仮名や片仮名へと進化しました。
さらに注目すべきは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて起きた「語彙の逆輸出」です。明治期の日本人は、西洋から怒涛の勢いで流入する近代学術・社会科学の概念を訳すため、「経済」「社会」「哲学」「民主」「科学」といった膨大な数の「和製漢語」を創出しました。これらの語彙は清朝末期の中国へと逆輸入され、現在の現代中国語(普通話)の語彙体系にも深く組み込まれています。私たちが中国語のニュースを見て「意味がわかる」と感じる単語の多くは、実は近代日本で作られた共通の知財でもあります。