朦朧体の試行錯誤を経て、大観が到達したひとつの頂点が名作『無我』だ。風に吹かれながら佇む童子の姿を描いたこの作品は、東京国立近代美術館などで公開されるたびに多くの鑑賞者を釘付けにする。純真無垢、作為のない心、禅の真理——解釈は多様だが、何より驚かされるのは無駄を削ぎ落とした線の鋭さだ。
輪郭線を否定した「朦朧体」の実験を通過したからこそ、大観は線の持つ本当の重みを取り戻した。童子の衣服を走る迷いのない墨線は、何十回もの試行錯誤と精神の研ぎ澄ましがなければ引けない極限の線である。装飾を脱ぎ捨て、魂の核だけを紙の上に定着させる。大観の真骨頂は、この引き算の極致にこそ宿っている。