暦の上では「涼風至(すずかぜいたる)」とされる時期になっても、アスファルトからは蜃気楼が立ち上る。かつての日本人が「薫風」や「薫る風」と詠んだ初夏の心地よさは、いまや一瞬で過ぎ去り、危険なほどの熱波が長期間居座るようになった。
「歳時記は動かない百科事典ではありません。生きている人間の肌感覚の記録です」
あるベテラン俳人はそう語る。古来、「炎昼」「極暑」「油照(あぶらでり)」といった暑さを表す言葉は存在した。しかし、近年の異常な高温を表す「猛暑日」や「酷暑」といった現代語を、どう俳句に組み込むかという議論が熱を帯びている。かつて「涼し」という言葉は夏全般の季語として重宝されたが、今やエアコンの効いた室内と外気温との強烈なギャップを詠む句が増加。言葉の持つ「手触り」そのものが変化しているのだ。