「認知症は遺伝するのか」という問いに対する医学の明確な回答は、「遺伝するタイプと、ほとんど遺伝しないタイプが存在する」というものです。世間一般では「親が認知症だから自分も必ずなる」という誤解が根強く残っていますが、病態のメカニズムを正しく知ることで無用な恐怖を取り除くことができます。
認知症は、発症の原因によって大きく2つのタイプに分類されます。
1つ目は、特定の遺伝子変異が親から子へ直接引き継がれることで発症する家族性アルツハイマー病に代表される遺伝性認知症です。親のどちらかが原因遺伝子(変異)を持っている場合、子どもへ50%の確率で遺伝し、遺伝子を受け継いだ場合は極めて高い確率で発症します。ただし、このタイプは認知症患者全体の1%未満という極めて稀なケースです。
2つ目は、認知症全体の99%以上を占める「孤発性(こはつせい)認知症」です。これは特定の単一遺伝子が原因ではなく、加齢、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、運動不足、喫煙、睡眠不足、ストレスといった環境要因に、複数の遺伝的体質が重なり合って発症します。つまり、家族歴が多少影響することはあっても、「親が発症したからといって必ず子も発症する」という決定論的な遺伝ではありません。