がん細胞には、構造的なアキレス腱が存在する。血流だ。正常組織は熱を受けると血管を拡張させて血流を増やし、ラジエーターのように熱を逃がす。ところが、がん組織の中に作られた新生血管は急ごしらえで粗雑なため、自律的な拡張ができない。熱が逃げずに局所へこもり、結果としてがん細胞だけが灼熱地獄に晒される。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した生理学者オットー・ワールブルクが解明したように、がん細胞は特異な解糖系代謝に依存しており、周囲に乳酸をため込んだ酸性環境を作り出す。この低酸素・低pHの微小環境こそが、実は熱に対する感受性を極限まで高める引き金となる。組織の温度が42.5度を超えた瞬間、がん細胞内のタンパク質は不可逆的な変性を起こし、自滅(アポトーシス)へのカウントダウンが始まる。