一般的に「犬の1年は人間の4年分」といった俗説が流布していますが、これは現代の獣医学においては大雑把すぎる計算式です。特に12歳というステージにおいて、小型犬12歳人間の年齢はおよそ64歳程度であるのに対し、大型犬12歳の人間換算では89歳から93歳前後の卒寿・白寿クラスに到達します。この約25年分もの開きは、人間でいえば定年退職を迎えたばかりのアクティブシニアと、手厚い介護を必要とする超高齢者ほどの違いです。
なお、柴犬やコーギーなどの中型犬12歳の人間換算では、おおむね69歳から72歳前後に位置づけられます。古くから用いられてきた「最初の1年で小型・中型犬は約15歳、2年目で約24歳になり、以降1年ごとに4歳ずつ加算される」というLeBeau(ルボー)の計算法や、近年のエピジェネティクス解析(DNAのメチル化プロファイルを用いた加齢モデル)を照らし合わせても、体のサイズと老化速度の逆相関は歴然とした科学的事実です。
なぜ体の大きな大型犬ほど急速に歳をとるのでしょうか。国際的な獣医病理学研究チームの報告や動物生理学の現場データによると、大型犬は子犬期から成犬期にかけて小型犬の数十倍もの猛スピードで細胞分裂を繰り返します。この急激な成長プロセスにおいて、成長因子である「IGF-1(インスリン様成長因子1)」の血中濃度が高止まりし、細胞の酸化的損傷が蓄積しやすくなる点が指摘されています。巨大な骨格と内臓を維持するための代謝負荷がテロメアの短縮を加速させ、小型犬よりも圧倒的に早い段階で細胞レベルの老化が進行してしまうのです。