日常会話で混同されがちな配偶者の呼び方だが、語源と本来の文法的な位置づけを整理すると、使える場面とNGな場面が明確に分かれる。まずは代表的な呼称の決定的な違いを押さえておきたい。
最も誤用が多いのが「嫁(よめ)」だ。本来、嫁とは「息子の配偶者」を指す言葉であり、夫側の親から見た立場を意味する。夫自身が自分の配偶者を「うちの嫁」と呼ぶのは、日本語の定義としては明らかな誤りだ。関西圏などの一部地域では親しみを込めた方言的ニュアンスとして定着している側面もあるが、全国区のビジネスシーンや改まった席では「教養を疑われる表現」と受け取られかねない。
次に頻出する「奥さん(奥様)」は、他人の配偶者に対する敬称(尊敬語)である。中世以降、屋敷の「奥」にいる身分の高い女性を敬って呼んだことに由来する。したがって、自分の配偶者に「うちの奥さん」と敬称をつけて外部に話す行為は、身内に敬語を使う二重の間違いとなり、ビジネスの基本マナーから逸脱してしまう。
長年ビジネスマンの定番とされてきた「家内(かない)」は、文字通り「家の中にいる人」を意味する謙称だ。昭和から平成にかけて広く用いられたが、共働き世帯比率が約7割を超える現代においては、「専業主婦を前提とした旧来の性別役割分担を感じさせる」として敬遠する声が増加している。誤りではないものの、相手や状況を選ぶ呼称へと変化しつつあるのが実情だ。
かつてへりくだった表現として使われた「愚妻(ぐさい)」は、完全に過去の遺物と言わざるを得ない。身内を卑下して相手を立てる伝統的な謙譲文化の一つではあるが、個人の尊厳を重んじる現代のビジネス倫理においては、相手に強い不快感を与える失礼な表現にほかならない。