医療現場において、歯科医師が語る抜歯と小顔の関連性は非常に冷徹かつ慎重です。日本口腔外科学会の指針に準拠する多くの専門医は、「小顔効果を主たる目的とした抜歯は推奨しない」という姿勢を崩していません。
その最大の理由は、親知らず抜歯による輪郭変化の度合いが完全に予測不能であるためです。美容外科における下顎角形成術(骨切り術)であれば、ミリ単位で骨を削り、事前に3Dシミュレーション通りの輪郭を造形できます。しかし、抜歯による骨の吸収や咬筋の縮小は生体の自然治癒プロセスに依存しており、どの部位がどれだけ細くなるかを術前にコントロールすることは不可能です。
また、現代の消費社会において過熱するルッキズム(外見至上主義)とSNS上の過剰な体験談消費に対して、心理学や社会学の観点からも警鐘が鳴らされています。自撮り写真のフィルター加工や、極端なビフォーアフター動画によって作られた「親知らず=天然の小顔整形」という幻想に飛びつき、口腔内の健康や将来の咬合バランスを軽視してしまう傾向が見受けられます。
親知らずは、将来的に他の大臼歯を失った際の「自家歯牙移植(じかしがいしょく)」のドナー歯として再利用できる貴重な生体資源でもあります。健康で正常に機能している親知らずを、不確実な小顔効果のために失ってしまうことは、将来的な咀嚼機能の維持という観点から大きな損失になり得ます。