物語の中盤、頭たちは劇的な運命の転換を迎えます。湯婆婆の双子の姉である銭婆が部屋へ突如として現れた際、鮮やかな魔術によってその姿を変貌させられる場面です。銭婆は湯婆婆が溺愛する巨大な赤ん坊「坊」を太ったネズミ(坊ネズミ)に、監視役の湯バードをハエのような小さな鳥(ハエドリ)へと変質させました。そして、残された3体の頭に対して杖を一振りし、3つの頭を合体させて偽物の坊の姿へと変身させたのです。
このすり替え工作によって、頭たちは図らずも「坊の影武者」としての役割を背負わされることになります。丸々と太った坊の肉体に擬態した頭は、ベッドの上で寝返りを打ちながら本物の坊のふりを続けました。ここで極めて印象的なのは、部屋に戻ってきた湯婆婆の反応です。普段は油屋の従業員たちの些細なミスも逃さず、冷徹に名前を奪って支配する強大な魔女が、目の前にいる「坊」が偽物であることに全く気づきませんでした。
宮崎駿監督の演出意図を探ると、ここには極めて痛烈な心理的アイロニーが仕掛けられていることが分かります。湯婆婆は坊を「私の可愛い坊や」と盲目的に溺愛し、病気を恐れて過保護に部屋へ閉じ込めていました。しかし、彼女が愛していたのは「自分が思い描く坊という記号」に過ぎず、我が子の魂や内面の機微など微塵も見ていなかったのです。3つの生首が寄せ集まった歪な偽物であっても、外見さえ整っていれば疑問すら抱かない。このすり替え劇は、過干渉でありながら無関心という歪んだ親子関係の本質を白日のもとに晒す見事なシナリオ装置として機能しています。