この思わぬハプニングを機に、店はこの薄切りポテトを地名にちなんで「サラトガ・チップス(Saratoga Chips)」と命名。瞬く間にムーンズ・レイク・ハウスの看板メニューへと押し上げられました。
伝説をさらにドラマチックに仕立てているのが、クレームをつけた客の正体です。後世の語りでは、当時の鉄道王として全米に名を轟かせていた大富豪コーネリアス・ヴァンダービルトだったという説が広く流布しました。気難しい大富豪を料理人の機転とプライドがやり込めたという構図は、アメリカンドリームの痛快な逸話として大衆の心を掴むのに十分なインパクトを持っていたのです。
フライドポテトを極限まで薄切りにするきっかけは、職人の苛立ちという極めて人間味あふれる感情から生まれました。偶然の産物が食の歴史を塗り替える瞬間が、まさにこの厨房で起きていたのです。