出家によって一時文壇の第一線から退いていた東光ですが、戦後、50代後半を迎えてから作家として凄まじい復活劇を演じます。その狼煙となったのが、1956年(昭和31年)に発表した『お吟さま』での第36回直木賞受賞でした。
千利休の娘・吟の悲恋と誇り高き死を描いた本作は、茶道や歴史への深い造詣と、情念をえぐるような濃密な筆致が高く評価されました。この受賞を機に、東光は一気に流行作家へと返り咲きます。
さらに世間を熱狂させたのが、大阪・八尾の風土と河内音頭の世界を活写した痛快任侠小説『悪名』シリーズです。腕っぷしが強く情に厚い主人公・朝吉と、弟分の八尾の清次が織りなすアウトロー活劇は爆発的な人気を獲得。勝新太郎と田宮二郎の黄金コンビで大映により映画化され、日本映画史に残る大ヒットシリーズとなりました。
河内弁の生々しいリズムと、泥臭くも筋の通った男たちの美学を描き切れたのは、東光自身が河内の庶民やアウトローたちと直に酒を酌み交わし、人間の業(ごう)を誰よりも理解していたからに他なりません。