「なぜケーキの一切れが『簡単』を意味するのか」という疑問には、いくつかの有力な歴史的ルーツが存在します。もっとも広く支持されているのは、19世紀後半のアメリカ南部で行われていた「ケーキウォーク(cakewalk)」と呼ばれる競技に由来する説です。
当時、黒人コミュニティの間で優雅かつ滑稽にステップを踏んで行進するダンスコンテストが催されており、もっとも洗練されたパフォーマンスを見せた勝者に巨大なケーキが賞品として贈られていました。ここから「cakewalk」という言葉自体が「簡単に手に入るもの・容易な勝ち筋」の代名詞となり、20世紀前半にかけてより身近な比喩として「a piece of cake」へ派生したと記録されています。
また、もうひとつの素朴な感覚的理由として、「一切れのケーキをペロリと平らげることくらい、誰にとっても楽で苦痛のない行為である」という食文化的な背景も重なっています。1930年代のイギリス空軍(RAF)のパイロットたちが、危険な任務を無事に終えたあとのブリーフィングなどで「楽勝だった」と仲間内でスラングとして使い始めたことで、英語圏全体へ爆発的に定着しました。