役者としての四代目市川猿之助は、まぎれもなく天才だった。伯父である三代目猿之助(二代目猿翁)が創始した革新的なスーパー歌舞伎の精神を受け継ぎ、『スーパー歌舞伎II ワンピース』を大ヒットへと導いた功績は歌舞伎史に刻まれている。ルフィ役として宙を舞い、客席を熱狂の渦に巻き込んだ姿は今もファンの記憶に鮮烈だ。
さらに『新・水滸伝』などの意欲作を次々と仕掛け、歌舞伎座の本興行でも古典の名作を現代的な解釈で鮮やかに演じ分けた。その才能は舞台にとどまらず、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で見せた怪僧・文覚役の怪演など、映像分野でも唯一無二のポジションを確立していた。
伝統と革新の架け橋として疾走し続けた日々。しかし、自らが切り拓いた巨大な成功そのものが、皮肉にも彼自身を縛り付ける強固な檻となっていたのかもしれない。