1983年に放送された連続テレビ小説『おしん』は、日本のテレビドラマ業界において金字塔と呼ぶべき驚異的な記録を打ち立てた。平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%という数字は、今では到底考えられない社会現象そのものである。日本中が朝の15分間に釘付けになり、おしんの境遇に涙を流し、その生き様に勇気をもらった。
本作の構造的な魅力は、主人公の一代記を三代の女優がリレー形式で演じ分けた点にある。少女時代をひたむきに演じて国民的子役となった小林綾子からバトンを受け取ったのが、当時すでに実力派として頭角を現していた田中裕子だった。そして晩年を重厚に演じた乙羽信子へと命の灯火を繋ぐ。なかでも全297回のうち大半を占める青春期から中年期を支えた田中の存在感は圧倒的だった。
脚本家・橋田壽賀子が紡ぎ出す膨大な台詞の応酬。田中裕子はそれを単なる記号的な「耐える女」として処理しなかった。瞳の微細な揺らぎ、唇の引き結び方、声の抑揚ひとつで、内に秘めたプライドや悔しさ、家族への深い情愛を多面的に描き出してみせたのだ。