テレビのリモコンを握りしめ、あるいはタブレットの画面をスクロールしながら、私たちは常に「既視感」と戦っている。どこかで見たことがある。あのサスペンスの刑事役だったか、それとも恋愛ドラマのバーのマスターだったか。脳の引き出しがどうしても開かないもどかしさは、現代のエンタメ消費が生んだ独特のバグと言える。
この現象の背景には、地上波テレビだけでなく、NetflixやU-NEXT、Amazon Prime Videoといったマルチプラットフォーム化がある。視聴する作品数が激増した結果、個々の俳優の名前を記憶するキャパシティが追いつかなくなっているのだ。特に40代の男性俳優は、サラリーマン、父親、犯罪者、エリート官僚など、社会のあらゆるレイヤーを演じ分ける器用さを求められるため、作品ごとに全く異なる表情を見せる。それが、視聴者の「名前がわからない」という混乱をさらに加速させている。