「お客様がテーブルに運ばれたお皿を見て、目を丸くして笑ってくれる。その瞬間が見たいだけなんですよ」
店主は汗を拭いながら、照れくさそうにそう笑った。目の前におかれた大皿には、透き通るほど薄くスライスされた最高級ランクの生ハムが、まるで満開の牡丹の花のように重ねられている。一般的なレストランであれば、わずか数枚で1000円以上を取るクオリティだ。しかし、この店ではその5倍以上の量が、信じられないような低価格で提供されている。
原価率は驚愕の80%越え。ドリンク代や他のメニューを合わせても、どう考えても利益が出る構造ではない。「採算? 正直、毎月トントンかちょい赤字ですよ」と笑う店主の表情には、商売の常識を超えた職人としての誇りが滲む。客の喜ぶ顔こそが最高の報いであり、原価計算の電卓など最初から捨て去っているのだ。