現場でなぜ複数のメンバーが一斉に限界を迎えたのか。その背景には、当時の物理的な過密日程と、『不協和音』という楽曲が持つ異常なまでの運動量および精神的侵食という2つの要因が存在します。
2017年末の欅坂46は、12月30日の「第59回 輝く!日本レコード大賞」への出演をはじめ、連日の歌番組生出演、紅白のリハーサルが過密に詰まっていました。それに加え、紅白本番当日に全力を出し切る単独パフォーマンスを行った直後、心拍数や呼吸が整わないまま、わずか30分足らずのインターバルで再び激しいダンスをフルパワーで踊るという構成は、医学的・運動生理学的にも過呼吸(過換気症候群)を引き起こしやすい極めて過酷な環境でした。
さらに大きかったのが、センター・平手友梨奈をはじめとするメンバーの「役に入り込みすぎる」精神性です。『不協和音』は、巨大な力や同調圧力に対して「僕は嫌だ」と全身全霊で拒絶を叫ぶ楽曲です。彼女たちは単に振付をトレースするのではなく、歌詞の世界観を自己の内面と同化させて表現する「憑依型」のパフォーマンスを追求していました。
当時16歳だった平手友梨奈は、インタビューやドキュメンタリー番組において「楽曲の世界に入り込むと自分自身が削られていく感覚がある」と吐露していました。表現に対する妥協なきストイシズムと、10代の脆い精神性が臨界点に達した結果が、あの紅白のステージ上での身体的破綻であったといえます。