全国の神社を包括する神社本庁が本宗と仰ぐ伊勢神宮(皇大神宮・豊受大神宮)の正宮では、かつて私幣禁断とされ、個人的な祈願や金銭の供出は厳しく慎まれてきた歴史がある。現代の伊勢神宮でも、正宮の前で人々が捧げるのは私利私欲の要求ではなく、国家や社会の安寧、そして日々の命に対する純粋な感謝だ。
初詣の参拝者数で日本屈指を誇る明治神宮では、広大な白布を張った特設の賽銭箱が設置され、無数の硬貨が宙を舞う光景が見られる。しかし本来の作法に立ち返れば、賽銭を遠くから投げつけるのは感心できない。神仏の御前にある賽銭箱へは、滑り込ませるように静かに納めるのが礼儀だ。
小銭を投げ入れる行為は、かつての「祓い」の動作に由来する側面もあるが、乱暴に放り投げて良い理由にはならない。一呼吸置き、丁寧に手元から手放す所作そのものが参拝の品格を形づくる。