温かい湯気で満たされた浴室で鏡が白くなるのは、空気中の水蒸気が冷たいガラス面に触れて急冷され、無数の微細な水滴となって付着するためです。この微小な水滴の一つひとつが光を乱反射させることで、人間の目には鏡が真っ白に曇って見えます。自動車のフロントガラスなどでは水を弾く「撥水(はっすい)」が有効ですが、湿度が100%近くに達する浴室の鏡では、撥水加工を施すと逆に細かな水滴が無数に立ち並び、かえって視界が悪化してしまいます。
そこで重要になるのが親水コーティングの仕組みです。親水性とは水となじみやすい性質を指し、ガラス表面の表面張力を下げることで、付着した水分を弾かずに「均一な水の薄い膜」へと変化させます。鏡の表面が一枚の平滑な水膜で覆われると光が真っ直ぐに透過・反射するため、湯気の中でも視界がクリアに保たれるという物理的な原理に基づいています。
しかし、市販の曇り止めを使っても「すぐに効果が落ちた」と感じるケースの大半は、コーティング剤そのものの欠陥ではなく、ガラス表面に蓄積した皮脂や石鹸カス、水道水中のカルシウムが結晶化した頑固な水垢(ウロコ)が原因です。凹凸のある汚れの上に薬剤を塗布しても均一な被膜が形成されず、わずか数回の入浴で水流とともに薬剤が流れ落ちてしまいます。効果が長持ちする持続期間を最大化するためには、コーティング剤を密着させるための清掃が不可欠な前提条件となります。