名門音楽大学に通い、富も美貌も生まれ持った完璧なサラブレッド・麻見史緒。一方、銀座のクラブでバイトをしながら、貧困と母の無理解に喘ぎ、這い上がる機会を虎視眈々と狙う緑川萌。設定だけを見れば古典的な昼ドラの構図に思えるかもしれない。だが、一条ゆかりの手腕はそうした安易な定型を粉砕する。
恵まれた環境にいた史緒は父親の会社倒産によって一瞬で奈落へ突き落とされ、萌は他人の靴を盗み、嘘を重ねてでも舞台の端に指をかけようとする。どちらも決して「清純な被害者」ではない。互いに強烈なコンプレックスと嫌悪を抱きながら、相手の才能だけは誰よりも正確に認識しているという皮肉。集英社の女性漫画誌『コーラス』の連載陣の中でも、このふたりの歪で強固な引力は異彩を放っていた。
オペラという過酷な表現世界において、最後頼れるのは己の声帯と覚悟のみ。上品ぶったプライドと、泥にまみれたプライド。ふたつの異なる誇りが激突する瞬間の火花は、読者の胸を容赦なく焦がす。