煮込み作業に入る前段階で行う下ごしらえこそが、仕上がりの雑味を排し、プロの味へと引き上げる生命線です。牛すね肉は運動量が極めて多い部位であるため、独特の血生臭さやアクが出やすい特性を持っています。まずは肉の表面を流水で手早く洗い、ペーパータオルで水分を1滴残らず拭き取る工程を怠ってはなりません。
臭み取りとして有効なのが、香味野菜(セロリ、ローリエ、玉ねぎ、人参)と赤ワインに漬け込む下処理です。ただし、赤ワインの酸(酒石酸やリンゴ酸)は長時間の漬け込みによって肉を引き締める作用も持つため、家庭での漬け込み時間は2時間から最長でも半日程度に留めるのが理想的です。
下処理のクライマックスとなるのが、煮込む直前の「焼き付け」です。漬け汁から引き上げた肉の水気を再度入念に拭い、強火で熱したフライパンに油を引いて表面を一気に焼き上げます。ここで目指すのは、内部への火入れではなく、表面のアミノ酸と糖が反応して褐色化するメイラード反応の誘発です。表面に濃いキツネ色の焼き色をしっかりと定着させることで、肉汁の流出を防ぐバリアを形成すると同時に、煮汁へ溶け出す芳醇なロースト香と重厚な旨味の基礎が完成します。