北京五輪の表彰台の頂点に立った直後、ネイサン・チェン選手が選んだのは、さらなる五輪連覇を目指す過酷なリンクではなく、学問の府である名門イェール大学への復学でした。多くのメディアやファンが「正式な引退発表はあるのか」と注視するなか、本人は記者会見等で「今後は学業に専念する」「競技への復帰は現時点で計画していない」と一貫して語っています。
厳密な意味での「引退(Retirement)」という断定的な言葉を公に宣言することは避けつつも、国際スケート連盟(ISU)のグランプリシリーズなどの公式競技会からは完全に退いており、実質的な競技引退(ソフト・リタイアメント)の状態に入っています。この選択に至った決定的な理由は、幼少期から抱き続けてきた「文武両道」への揺るぎない価値観と、五輪金メダルというアスリートとしての究極のゴールを達成したことにあります。
2026年秋に出版された自伝『One Jump at a Time: My Story』において、彼は競技生活の中で直面した極度のプレッシャー、股関節などの度重なる怪我、そして2018年平昌五輪でのショートプログラム17位という失意のドン底からいかに這い上がったかを赤裸々に告白しました。北京五輪での圧巻のフリー『ロケットマン』は、自らのスケート人生の集大成であり、そこで燃え尽きることなく次の人生のステージへ進むことは、彼にとって必然のステップだったといえます。