『古事記』や『日本書紀』の記述を紐解くと、八咫烏の決定的な役割が鮮明になる。日向の地を発ち、大和を目指して過酷な進軍を続けた神武天皇。その軍勢が紀伊半島の険しい山中で方向を見失い、猛毒の霧と悪路に阻まれて立ち往生したとき、高天原の神々から遣わされた案内役こそが八咫烏だった。
八咫(やた)の「咫」とは親指と中指を広げた長さを指す古代の単位で、八咫烏とは「途方もなく巨大な鳥」を意味する。日本神話において、漆黒のカラスは不吉の前兆などではない。太陽神である天照大御神の化身、すなわち暗雲を切り裂く曙光そのものとして描かれた。熊野の険峻な原生林を駆け抜け、大和への活路を切り開いたその飛翔は、日本という国家体制の創世記における「絶対的な道標」だったのだ。