江口寿史氏が描くイラストの最大の特徴は、「極限まで無駄を削ぎ落としたシンプルな線」と「計算し尽くされたフラットな配色」にあります。陰影を何層も塗り重ねて立体感を出す現代のデジタルイラストとは対照的に、わずか数本の流麗な輪郭線と的確なベタ塗りだけで、女性のしなやかな骨格や服の質感、さらにはその場の温度感までをも見事に表現します。
描かれる女性たちの表情やポージングには、鑑賞者を過剰に意識したあざとさがありません。ふと視線を逸らした瞬間や、歩行中の自然な足の運び、髪をかき上げる仕草など、日常の中に潜む「リアルな一瞬」を切り取る卓越した観察眼が光ります。身にまとっているスニーカーやオーバーサイズのシャツ、アイウェアなどの小物選びも極めてリアルであり、流行を捉えつつも決して記号化されないタイムレスな魅力を宿しています。
この独自のスタイルは、アメリカのポップアートの巨匠たちや日本の浮世絵が持つ「平面の美」を現代的に昇華させたものと言えます。鑑賞者の想像力を刺激する余白があるからこそ、80年代をリアルタイムで生きた世代だけでなく、SNSネイティブの若い世代にとっても「今っぽくてエモい」アートピースとして熱烈に支持されています。