定期テストや高校入試で受験生を悩ませるのが、この反応の「化学反応式」です。中学理科の教科書で扱われる簡略化された表記と、高校化学で扱う実際の水和物を含んだ表記には違いがあります。双対する2つの視点を把握しておくことが失点を防ぐ近道です。
1. 中学理科レベルの化学反応式(無水物ベース)
中学校の理科教科書では、結晶水(水和水)を省略した形で出題されるケースが主流です。化学反応式の作り方は以下の手順で整理できます。
水酸化バリウム「$\mathrm{Ba(OH)_2}$」と塩化アンモニウム「$\mathrm{NH_4Cl}$」が反応すると、塩化バリウム「$\mathrm{BaCl_2}$」、アンモニア「$\mathrm{NH_3}$」、そして水「$\mathrm{H_2O}$」が生成します。
未調整の式: $\mathrm{Ba(OH)_2 + NH_4Cl \rightarrow BaCl_2 + NH_3 + H_2O}$
左辺のバリウム(Ba)は1個、塩素(Cl)は右辺に2個あるため、左辺の$\mathrm{NH_4Cl}$の係数を「2」にします。それに伴い窒素(N)が2個になるため、右辺の$\mathrm{NH_3}$の係数も「2」とします。最後に水素(H)と酸素(O)の原子数を合わせると、水の係数は「2」に決定します。
完成した化学反応式:
$\mathrm{Ba(OH)_2 + 2NH_4Cl \rightarrow BaCl_2 + 2NH_3 + 2H_2O}$
2. 高校化学・学術的な実態(水酸化バリウム八水和物)
高校化学や実際の実験室で使用される試薬は、無水物ではなく水酸化バリウム八水和物($\mathrm{Ba(OH)_2 \cdot 8H_2O}$)です。結晶格子の中に最初から水分子が8個組み込まれているため、正確な全容を表す式は以下の通りになります。
$\mathrm{Ba(OH)_2 \cdot 8H_2O + 2NH_4Cl \rightarrow BaCl_2 + 2NH_3 + 10H_2O}$
固体の結晶同士を混ぜ合わせた際、八水和物の結晶水が解離して液体の水(10分子)へと変化し、同時に2分子のアンモニアガスが発生します。熱を吸収する反応(エンタルピー変化 $\Delta H > 0$)でありながら室温で勝手に反応が進むのは、固体から大量の液体と気体が生じることで乱雑さ(エントロピー $\Delta S$)が劇的に増大するためです。大学入試の熱化学・ギブズ自由エネルギーの分野でも好んで取り上げられる極めて美しい実例です。