映画のセリフがこれほどまでに社会の共通言語化した例は、世界的に見ても珍しい。理由の第一は、その独特なイントネーションと語尾の響きにある。語尾に付く「〜じゃ」や「〜のう」といった言い回しは、時に親密な人間味を漂わせる一方で、感情が爆発した瞬間にはナイフのような殺傷能力を帯びる。
脚本を手掛けた笠原和夫らは、終戦直後の混乱期を生きた闇市の人々の生の証言を貪るように取材した。抑圧された欲望、欲望がぶつかり合う凄惨な現場で実際に飛び交っていたのは、洗練された都会の言葉ではなく、泥と血にまみれた泥臭い方言だったのだ。言葉そのものが持つ荒々しいグルーヴ感が、映画という媒体を通して増幅され、観客の情念を揺さぶったのである。