東京臨海部や横浜のメガマリーナで、ここ数年起きている現象がある。係留費の高騰と順番待ちリストの長期化だ。プレジャーボートの維持費は年々跳ね上がり、ただ係留権を維持するだけで中小企業の役員報酬並みの出費を迫られるケースも珍しくない。結果、船を愛する人々が下した決断は明快だった。少し南へ下ること。
千葉市中央区の沿岸部は、工業地帯と生活圏が入り混じる独特の景観を持つ。観光地化された湘南のような華やかさはないが、海に出るまでの実利的な動線が圧倒的に洗練されている。「派手なテラス席でシャンパンを飲むためにボートを持っているわけじゃない」と、早朝に出航準備をしていた50代の会社役員は笑う。彼が求めたのは、エンジンを回し、気兼ねなく沖へ船首を向けられるストレスのない空間だった。