「食虫植物なのだから、定期的に虫を捕獲して与えなければ飢え死にしてしまうのではないか」という思い込みは、栽培現場における最大の都市伝説と言えます。結論から言えば、人工的な餌やりは百害あって一利なしです。
植物生理学的な視点からその構造を分解すると、ハエトリグサの主食はあくまで「太陽光と二酸化炭素、そして水」によって作られる光合成産物です。捕虫によって得られるのは炭水化物(エネルギー)ではなく、自生湿地の土壌に決定的に不足している「窒素・リン酸・カリウムなどの無機栄養素」に過ぎません。人間で例えるなら、食事そのものではなく、マルチビタミンのサプリメントを微量に摂取している状態に近いと言えます。
コーナンTips等の解説でも触れられている通り、原産地の貧栄養土壌を克服するために進化させた補完システムであり、屋外で日光に当てていれば、自力で飛来する小さなアリやハエを年に数匹捕らえるだけで必要な微量要素は満たされます。万が一まったく虫を捕まえられなかったとしても、十分な光量と水さえあれば何年も健全に成長し、巨大化することが研究によって実証されています。
無理に死んだ虫を押し込んだり、加工肉を与えたりすると、捕虫葉の開閉センサーが適切に感知せず消化酵素が分泌されません。密閉不全を起こしたトラップ内で有機物が異常発酵し、植物組織を壊死させる原因となります。「獲物を与えて愛でる」という飼育衝動を抑え、自立した光合成環境を整えることこそが、正しい育成アプローチです。