リスナーが楽曲に対して「エモい」「洗練されている」「都会的でおしゃれ」と感じる瞬間、脳内では音楽的な期待とその巧みな裏切りが起きています。一般的なポップスで多用される主要三和音(トニック・サブドミナント・ドミナント)による単純な解決ではなく、ジャズやネオソウルの文脈から輸入された緊張と緩和のグラデーションが、独特の浮遊感と心地よい切なさを生み出すためです。
第一線で活躍するサウンドプロデューサー陣の制作現場インタビューや音楽誌の証言でも、「ヒット曲のフックには必ず、予測を裏切るノンダイアトニックコード(調性外の音)やテンションが数ミリ単位の精度で配置されている」と語られています。聴き手に安心感を与える進行感(トナリティ)を保ちつつ、半音の引っかかりや予想外の進行を差し込むことで、感情を直接揺さぶる叙情性が生まれるのです。
この質感を生み出す代表格がセカンダリードミナントやサブドミナントマイナー、そして「9th」「11th」「13th」といったテンションノートです。基本となるコードの土台をわずかにずらし、色彩感を与える手法を身につけることが、ありきたりなコード進行から抜け出す第一歩となります。