かつての日本の加工食品には、「食塩相当量」ではなく「ナトリウム〇〇mg」という表記が広く用いられていた。当時の表示制度について記憶している読者も多いだろう。しかし、この旧来の表示法は、一般消費者に対して深刻な「塩分過小評価」のバイアスを生み出していた。
食品成分表のナトリウム表示はミリグラム単位で記載されるため、数字の桁数が大きく見える一方で、「これが食塩に換算して何グラムに該当するのか」を直感的に把握できる消費者はごく一部に限られていた。医師から「1日6g未満に抑えてください」と指導されている患者が、食品ラベルの「ナトリウム 800mg」を見て「800mgなら1g未満だから大丈夫だろう」と誤認し、実際には約2.03gもの塩分を摂取していたという医療現場での悲劇が後を絶たなかったのである。
こうした健康被害のリスクと消費者意識の乖離を是正するため、消費者庁を中心とした議論を経て、2015年に「食品表示法」が施行された。5年間の経過措置期間を経て、2026年4月以降、一般用加工食品および添加物における「食塩相当量」の表示が完全義務化された経緯がある。これにより、消費者は電卓を叩いて換算することなく、日々の塩分摂取量を直感的に把握できる環境が整った。現在でも一部の輸入食品や古いレシピ本、海外基準のサプリメントなどではナトリウム(Sodium)表記が残存しているため、換算式「×2.54」の知識は依然として強力な武器となる。