1959年1月14日、第三次観測隊を乗せたヘリコプターが昭和基地の上空へ到達した際、隊員たちは信じがたい光景を目撃する。雪原に立ち、尾を振る2頭の黒い影。タロとジロだった。15頭中、鎖から抜け出すことができたのは8頭。そのうち、基地周辺で生存が確認されたのはこの若き兄弟犬の2頭のみだった。
なぜタロとジロだけが生き残ることができたのか。国立極地研究所に残る一次資料や近年の研究知見を照らし合わせると、いくつかの決定的な要因が浮かび上がる。第一に、彼らが当時3歳前後と極めて若く、体力と順応性に満ちていたこと。第二に、鎖から自力で抜け出すことに成功した体格的偶然だ。首輪を脱出できなかった犬たちは、その場で冷たい骸となっていた。
さらに長年議論されてきた「何を食べて生き延びたのか」という点についても、科学的な検証が進んでいる。基地に残されていたアザラシの糞や、海氷の割れ目から顔を出すペンギン、魚類、さらには海鳥の死骸などを捕食していた形跡が確認されている。共食いをした形跡は一切見当たらず、自力で厳しい生態系に適応し、アザラシを狩る術を身につけていたのだ。氷雪を掘り進めて風雪を凌ぐ即席の雪洞を作るなど、樺太犬本来の強靭な生存本能が彼らを極限状態で生かし続けた。