秋田書店の『週刊少年チャンピオン』で連載が始まった『グラップラー刃牙』、そして『刃牙道』へと続く壮大なサーガ。作者である板垣恵介が生み出した主人公・範馬刃牙の必殺の構えは、本来なら紙の上だけのロマンだったはずだ。肉食恐竜をも威嚇したとされる白亜紀の植物食恐竜のイメージを己の肉体に降ろす――この超現実的なコンセプトを、那須川天心は持ち前のずば抜けた身体操作能力で具現化してみせた。
板垣恵介が描く格闘漫画の神髄は、人体の構造と闘争本能への徹底的な探求にある。那須川はそのエッセンスを本能的に理解していた。漫画のコマから飛び出したようなフォームでありながら、足の親指にかかる荷重、体幹の締め、肩甲骨の柔軟な脱力に至るまで、超一流のアスリートとしての解釈が施されている。二次元の空想と三次元の肉体が交差した瞬間だった。