家族社会学およびスポーツ心理学の視点から那須川梨々さんの人生の選択を分析すると、極めて健全で成熟した自己確立のプロセスが見て取れます。
突出した天才アスリートを擁する家庭では、往々にして他の兄弟が「〇〇の弟・妹」という従属的なアイデンティティに縛られ、自己否定感や共依存関係に陥るリスク(家族内役割の固定化)が生じがちです。特に日本の武道・格闘技界においては、家族ぐるみの指導体制が強固であるほど、個人の独立した意志表明が難しくなるケースが散見されます。
そのなかで梨々さんは、自らも過酷なRISEのリングに上がり、アスリートとしての限界まで力を尽くした上で、「他者からの期待」と「自分自身の幸福」の間に明確な心理的バウンダリー(境界線)を引くことに成功しました。偉大な家族の名声に依存することなく、自らの意志で家庭を築き、母としての人生を切り拓いた彼女の決断は、アスリートのセカンドキャリア論としても極めて意義深い好例といえます。