事件が発生した現場は、人が立ち入るには相応の警戒が必要とされるエリアだった。イゴール・ツィガネンコフ氏は、川辺で釣具を回収中に背後からカムチャツカヒグマに襲われたとされる。衝撃音と義父の叫び声を聞いたオルガ・モスカリョワ氏は、パニックに陥りながらもすぐさま母親の携帯電話へとダイヤルした。
母親は最初、娘が悪質な悪戯電話をかけているのだと錯覚したという。しかし、背景から聞こえる肉食獣の唸り声と、娘の切迫した悲鳴によって事態の異常さを察知。即座に地元の警察とロシア非常事態省に通報を入れたが、広大な原生林における位置特定には時間を要した。
約45分間におよぶ一連の電話記録は、極限状態におかれた人間の心理と、肉食獣による捕食行動の冷酷さを無機質に刻んでいた。現場に残された足痕や爪痕の分析から、捕食者は一頭ではなく、母グマに促された若い子グマたちも攻撃に参加していたことがのちに判明している。