生理学的な問題と並び、見落としてはならないのが「心理的ブレーキ」です。目は冴え渡っているのに布団から抜け出せないとき、大脳皮質の下層にある扁桃体は「起床=苦痛・脅威への直面」と判定し、身体をフリーズ(凍りつき反応)させています。
心理学において、これは「回避的コーピング(Avoidance Coping)」の一種として説明されます。職場での過重労働、人間関係の軋轢、学校での強烈なプレッシャーを抱えている個体にとって、布団の中は外界の脅威から身を守る唯一の「物理的シェルター」です。無意識の防衛本能が筋肉のトーンを意図的に落とし、外界への出撃を阻止しようとする結果が、「身体が金縛りのように動かない」という自覚症状となって現れます。
さらに深刻なのが、昭和・平成期から引き継がれてきた「根性論バイアス」による二次被害です。日本では古くから、体調不良やメンタルの変調を「気の持ちよう」として処理する抑圧的な文化が根強く存在してきました。この文化を内面化した真面目で責任感の強い人ほど、起き上がれない自分に対して強烈な「認知の歪み(全か無かの思考・べき思考)」を発動させます。「起きられない自分には価値がない」「社会人失格だ」と自己攻撃を繰り返すことで、脳内のセロトニン系は完全に枯渇し、最終的にはうつ病初期症状の固定化へと突き進んでしまうのです。