昭和から平成にかけて食卓の定番として親しまれた「プチトマト」。当時の記憶から、今でも小さなトマト全般をプチトマトと呼ぶ消費者は少なくありません。しかし、種苗業界の公式記録を紐解くと、驚くべき事実が浮かび上がります。
「プチトマト」という名称は、大手種苗メーカーのタキイ種苗が1975(昭和50)年に開発・販売を開始した一代交配種(F1品種)の登録商標です。当時、日本の住宅事情は高度経済成長期を経て団地やマンションが増加し、ベランダ栽培に適したコンパクトな野菜への需要が高まっていました。タキイ種苗が家庭菜園向けに「プチトマト」の種子を市場へ投入すると、その手軽さと愛らしいネーミングから爆発的なヒットを記録。やがて飲食店や一般流通にも波及し、小型トマトの代名詞として社会現象を巻き起こしました。
しかし、時代が進むにつれて消費者が求める食味は「酸味控えめでより甘いもの」「果肉がしっかりして日持ちするもの」へと高度化していきます。各社による品種改良競争が激化するなか、タキイ種苗自身もより食味と耐病性に優れた「千果(ちか)」などの次世代ミニトマトを次々と市場へ投入。その結果、元祖であるプチトマトは役割を終え、2007(平成19)年に種子の販売が正式に終了しました。つまり、現在市場で「プチトマト」を名乗って販売されている小型トマトの実態は、すべて別の現代品種(ミニトマト)なのです。