転機は、劇作家・つかこうへいとの運命的な出会いによって訪れる。1970年代後半、熱狂的な支持を集めたつか劇団の看板俳優として、風間杜夫は過酷な稽古とハイテンポな台詞回しに没頭していく。舞台演劇の枠組みを根底から覆す革命の渦中で、風間は心身を極限まで削りながら役を生きていた。
その熱狂は映画界へと波及する。1982年、松竹が製作した映画『蒲田行進曲』で銀四郎役を演じた風間は、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめとする数々の栄冠を獲得。名実ともにトップスターへと駆け上がった。階段落ちの伝説的ラストシーンの裏で、役柄のプレッシャーに押しつぶされそうになる夫の精神状態を、日常の何気ない会話と温かい手料理で整えたのが妻だった。
スター街道を爆走し、環境が劇的に変化しても、家庭の中だけは下積み時代と同じ穏やかな時間が流れていた。狂乱の演劇ブームの真ん中で、妻の存在は風間にとって唯一の「安全地帯」であり続けたのである。