ポワロ作品の中でも最高峰と評される名作『オリエント急行の殺人』と『ナイルに死す』は、時代やメディアを変えて何度も映像化されてきた。豪雪で孤立した豪華列車という密室で繰り広げられる悲劇を描いた『オリエント急行の殺人』は、正義とは何かという根源的な倫理観を突きつける重厚なラストシーンが真骨頂だ。
対して、エジプトの異国情緒溢れる風景をバックに泥沼の愛憎劇が展開する『ナイルに死す』では、人間の情念が引き起こす犯罪の悲しい本質が描かれる。スーシェ版ドラマの重厚で丁寧な心理描写と、ブラナー版映画のスケール感溢れる映像美。双方の作品を見比べることで、同一の原作からいかに異なるドラマが立ち現れるか、その演出の奥深さを堪能できる。