阿蘇白雲山荘の歴史に終止符を打つ契機となったのは、2016年4月14日および16日に発生した熊本地震です。阿蘇地域は震度6強から震度7相当の激震に見舞われ、黒川地区を含む阿蘇市一帯は大規模な地割れ、斜面崩落、ライフラインの寸断など壊滅的な被害を受けました。
地震発生当時、阿蘇白雲山荘でも宿泊客や従業員が激しい揺れに襲われました。幸いにも迅速な避難誘導により宿泊客の人的被害は最小限に食い止められたものの、建物自体が受けた物理的ダメージは深刻を極めました。本館および別館のコンクリート躯体には無数の亀裂が走り、大浴場の配管破裂、ボイラー設備の全壊、さらには地盤沈下による基礎部分の歪みが確認されたのです。
震災直後は「営業休止」として安全点検と復旧の道が模索されました。しかし、専門業者による詳細な耐震診断・構造計算を実施した結果、営業再開に必要な改修費用は数十億円規模に達することが判明しました。新耐震基準への完全適合や斜面補強を含めると、実質的に建物をゼロから建て直す(全棟建て替え)に等しい資金が必要となったのです。
さらに、当時は国道57号線の崩落やJR豊肥本線の不通など、阿蘇地域への交通インフラが完全に麻痺しており、観光需要の早期回復を見通すことが極めて困難な情勢でした。民間金融機関からの調達や公的支援制度の適用条件などを慎重に精査した結果、経営陣は断腸の思いで事業継続を断念。創業から数十年におよぶ歴史に幕を下ろす決定が下されました。