「分量通りに作ったはずなのに、なぜか本格的なインド料理店の味にならない」。その最後のピースを埋める決定的な鍵となるスパイスが「カスリメティ」だ。フェヌグリークの乾燥葉であるこのハーブは、熱を通すことでメープルシロップやキャラメルを思わせる甘くほろ苦い特有のアロマを放つ。カスリメティが入っていないバターチキンは、どれほど高価なスパイスを使っても「家庭風カレー」の域を出ない。
使い方の鉄則は、仕上げの直前に手のひらで軽く擦り合わせ、粉状に崩しながら鍋へ投入すること。立ち上る蒸気と油分がカスリメティの香気成分を一気に抱き込み、料理全体に魔法のようなプロの風味をまとわせる。
もう一つの科学的アプローチが鶏肉の下味処理だ。ヨーグルト、すりおろし生姜、にんにく、ガラムマサラに最低30分漬け込む。ヨーグルトに含まれる乳酸が肉の筋繊維を優しく分解し、加熱してもパサつかずジューシーな食感をキープする。フライパンで強火で焦げ目をつけ、香ばしさを引き出してから煮込み鍋に合流させるのが名店の流儀だ。