この伝説の影で、昭和の時代にどのような現実の悲喜劇が起きていたのか。厚生労働省が蓄積してきた過去の「人口動態統計」をつぶさに検証すると、単に出生数が減っただけではない生々しい実態が浮かび上がる。
1966年の統計において際立つのは、人工妊娠中絶件数の突出した増加だ。当時の医療水準や社会通念のなかで、迷信を恐れる親族からのプレッシャーに抗しきれず、産まない選択を強いられた女性たちが少なからず存在した。さらに、生まれた子どもの戸籍上の出生日を前年の12月や翌年の1月にずらして届け出る事例も横行した。人口統計学の視点から見ても、これほど民俗的要因が直接的に統計数値を狂わせたケースは、近代先進国において極めて稀有な事態といえる。