東映アニメーションが手掛けた80年代の金字塔的作品群において、塩沢氏の存在は不可欠であった。『北斗の拳』で演じた「南斗水鳥拳のレイ」は、荒廃した世紀末の世で妹のために生き、やがて友のために散っていく義の男だ。最期の「てめえらの血はなに色だーっ!」という咆哮は、アフレコ現場の空気を凍りつかせたという逸話が残る。静かな美声から一転、喉が裂けんばかりの情念を叩きつけたこの名演は、バトルアクション史に永遠に刻まれた。
また『聖闘士星矢』の牡羊座(アリエス)のムウ役では、静謐な知性と圧倒的な強さを秘めた長老格としての風格を見事に表現した。制作当時のスタッフの証言によれば、ムウの登場シーンでは「とにかく塩沢さんの声の品格に負けない画作り」が現場で徹底されていたという。声優の演技が作画や演出のハードルを引き上げた象徴的なエピソードである。