1952年、美空ひばりが15歳の年に発表された『リンゴ追分』は、単なるヒット曲を超えて「ひばり芸術」の完成形を示す記念碑的作品となりました。
作詞の小沢不二夫、作曲の米山正夫が手掛けた本曲は、ラジオ東京(現TBS)開局記念ドラマ『リンゴ園の少女』の主題歌として制作されました。津軽リンゴ園を舞台にしたこの物語で、ひばりは主演を務め、劇中で歌われた『リンゴ追分』は瞬く間に全国を席巻します。
曲の途中に挿入される「リンゴの花びらが 散ったとさ… つがる娘は 泣いたとさ…」という独白(セリフ)は、15歳の少女が語っているとは信じがたいほどの哀愁と情感を帯びていました。歌詞の背景にあるのは、津軽の厳しい寒さと、リンゴの収穫に生きる人々の哀歓、そして遠く離れた母親を恋い慕う切ない心情です。
当時、日本コロムビアの制作現場にいた関係者の証言によると、レコーディング時にひばりは譜面を一読しただけでメロディと追分の独特な節回しを完全に把握し、わずか数回のテイクで完璧な歌唱を録り終えたといいます。民謡の「追分節」とモダンなジャズ・歌謡曲の要素を融合させた米山正夫の緻密なアレンジに、ひばりの天才的な声量とコブシが見事に合致した瞬間でした。