名曲『愛燦燦』が世に送り出されたのは、1986年(昭和61年)5月29日のことでした。この楽曲は、食品メーカー・味の素の企業イメージCMソングとして企画されたことが誕生のきっかけです。
家族の食卓を温かく見つめるコマーシャルの楽曲制作にあたり、白羽の矢が立ったのが、当時すでに稀代のヒットメーカーとして名を馳せていたシンガー・ソングライターの小椋佳でした。そして、歌唱担当として指名されたのが美空ひばりだったのです。
当時、日本勧業銀行(のちの第一勧業銀行)のエリート銀行員としての顔も持っていた小椋佳は、オファーを受けた際に強い逡巡を覚えたと後に述懐しています。国民的栄誉を極めた「歌謡界の女王」に対して、これまでの派手な大作路線ではなく、あえて肩の力を抜き、一人の人間としての温もりを歌ってもらいたい——そう考えた小椋は、華美な技巧を削ぎ落とした素朴で深遠なメロディと詞を書き上げました。
デモテープを聴いた美空ひばりはその世界観に深く共鳴し、レコーディングでは一切の無駄な力みを排し、語りかけるような奇跡のテイクを残すこととなりました。