舞台鑑賞の満足度を左右する決定打となるのが、ホールの「座席からの視認性」と「音響特性」です。まつもと市民芸術館の主ホールは、ヨーロッパの伝統的なオペラ劇場を彷彿とさせる優雅な馬蹄形構造を採用しています。客席と舞台の距離感を極限まで縮めた設計は観客から高評価を得ている一方、客席の位置によって体験の質が大きく分かれるという構造的特徴を持ち合わせています。
まつもと市民芸術館の座席の見え方において、最も視界が安定しているのは1階席中央ブロック(おおむね7列目から18列目)です。適度な傾斜が確保されており、前の観客の頭部が視界を遮りにくく、舞台全体のダイナミズムを余すところなく捉えることができます。一方で注意を要するのが、3階・4階のサイドバルコニー席です。舞台を見下ろす角度が非常に急峻であり、手すりやバルコニーの張り出しによって、ステージの奥(上手の端や下手の端)が見切れる現象が発生します。「舞台前方の演技は見事に見下ろせるが、奥揚幕や舞台深くに役者が引っ込むと全く見えなくなった」という舞台ファンの生々しい検証レポートが知恵袋やSNSに投稿されているのは、この馬蹄形設計特有の死角が原因です。
一方、まつもと市民芸術館の音響の評判はどうでしょうか。クラシック専用のシューボックス型ホール(サントリーホールやキッセイ文化ホールなど)と比較すると、残響時間は演劇やオペラでのセリフの聞き取りやすさを重視した設計になっています。主ホールには可変式プロセニアムと可変天井が備わっており、演目に応じて残響時間を約1.4秒〜1.9秒の範囲で緻密にコントロール可能です。オーケストラ単体では「やや音がタイトで乾き気味に聴こえる席がある」というシビアなクラシック愛好家の指摘もあるものの、歌手の肉声や役者の台詞の明瞭度は群を抜いており、ミュージカルやオペラ、現代演劇においては日本国内屈指のクオリティを誇ります。